センターについて

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 岡山大学教育学研究科附属実践データサイエンスセンターでは、岡山大学で開発したeラーニングの運用や改良、そこから得られた膨大なビッグデータの分析や活用、さらには、人工知能の開発を見据えた研究などを行っています。当センターでは、ビッグデータの中でも、分析が難しいとされている、ヒトの行動データにフォーカスしています。

ヒトの行動データを扱うことの難しさ

 ヒトの行動データを扱う場合、「時間」をいかにして処理するのかが大きな課題となっています。購買行動のビッグデータから、次の購買を予測する場合には、過去の購買行動のタイミングを整理してコーディングする必要がありますが、現状の仕組みではそのランダムとも言える時間情報の処理を的確に行い、そこから新たな予測を行うことは大変難しいことです。

 例えば、ビールの広告を最適なタイミングで提示しようとした場合、ターゲットがビールを買う確率を推定し、その確率が高い場面で広告を提示できることが最も効果的なアプローチと考えられます。しかし、ターゲットが前日ビールを1箱購入していた場合、今日新たにビールを買い足すことはないでしょう。逆に、1ヶ月前にビール購入したきり、その後の購入がなければ、そろそろビールを買う確率が高まっているかもしれません。

 このように、人の行動データを扱う場合は、そのターゲットの過去の行動がどのようなものだったのかという「スケジュール」、つまり経験(履歴)を踏まえた上での「データコーディング」が必要不可欠となります。ポイントカードや、クレジット決済など、あらゆる局面でヒトの購買データや、行動のデータが取得されるようになって久しいですが、残念ながら、そこから革新的なサービスや、我々の生活に影響を与えるほどの技術革命が起きていないのもまた事実です。その理由は、スケジュールの概念と、データのコーディングの技術が未整理で、明らかにしたい情報が埋もれてしまっていること、また、ヒトの過去の微細な行動の影響が過小評価されていることに他なりません。

時間条件を事前整理した学習データ取得の方法

 学校教育の場面において、学習者がとある英単語の意味をどの程度理解し、どの程度の確率で正答できるかを推定する場合も同じことが言えます。

 たとえば、試験の前日や直前にその単語を学習し、テストでその単語が出てくれば成績は高くなりますが、1か月前に学習しただけであれば成績は低くなります。ところが、その1か月前よりさらに1年前からコツコツと勉強をしていたとすれば、試験当日その単語に対して正答できる確率は高くなると考えられます。これからすれば、明日の試験である問題に正答できる確率(実力の到達度)を正確に予測するためには、その学習者がその問題を、いつ、どのくらい学習していたのかを、過去に遡って、年単位で把握しておく必要があるわけです。
 言い換えれば、学習者がそれ以前にいつその問題に遭遇し、どのような回答をしたのか、そういった情報を年単位で把握し、それに対応したデータのコーディングがなければ、個人の成績や、その子の実力などを正確に測ることなど、到底できないはずです。

 「いつ」という時間条件は無限に定義でき、大きな影響をもっています。そのため、単純に収集される人間の行動データには、大きな誤差を生み出す「ゴミ情報」がまとわり付いた状態だともいえます。先のビールのお話が、その良い例です。しかし、学習データは違います。学習内容をいつ学習するのかをあらかじめ決めて学習者に提供することができます。つまり、事前に学習する時間条件を統制し(つまり、スケジュールを作り)、データを収集することができれば、そのゴミを排除することができます。

 当センターのeラーニングサービスの基盤となっている、マイクロステップ計測技術は、前述のような「時間条件をどのように制御するのか」という技術的な部分で特許を取得し、時間条件の影響などを排除した、正確なデータ処理を可能にしています。具体的には、取得される情報に対して、あらかじめ時間情報となる、いつ、何を、何回、どのようなタイミングで、というスケジュールを事前に想定し、そのスケジュールに沿って実際の学習とデータ測定をしていくという技術です。詳細は割愛しますが、この技術を組み込んだeラーニングをマイクロステップ・スタディとしてリリースし、これまで埋もれていて見えなかった、日々のわずかな勉強の効果を学習者ごとに可視化し、それをフィードバックすることを可能にしました。そこで描き出される成績は、ほぼ全ての学習者において上昇し、そのフィードバックを受ける学習者の意欲は確実に向上し、継続して学習を継続する状況を生み出すサービスとなっています。現在、岡山大学のみならず、周辺の自治体や、関東・関西・近畿・北陸の私立学校など1万人以上の規模でサービスを提供しています。(2024年度現在)